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――彼女の、この表情の向こう側にあるものは、何なんだろう。
はじめは、単純に春山先生を手に入れようとしているだけだと思っていたけれど、――彼女の過去と現在を知ってしまった今、彼女の覚悟には、それ以上の大きなものを感じる。
「分かってるんです、わたし。哲哉くんが、萌先輩に惹かれてるってことくらい。
……でもね。」
月子ちゃんは一歩足を踏み出した。
「もう時間の問題ですよ。
わたしには、チャンスがいくらでもありますから。
わたし、今までにも何度も哲哉くんのこと誘惑してるんです」
わたしは唇を噛んだ。
「先生は、そんな誘惑なんかに乗らないもの」
「そうですね。普通の誘惑じゃ、全く効き目ありませんでした。
だから、……今は、普通じゃない誘惑をしてるんです。
かなり、弱みに付け込んじゃう方法で」
わたしは驚いて、月子ちゃんの顔を見つめた。
「なに、弱みって」
「それは言えないかなあ。すっごく卑怯な手を使ってるから。
あとは、哲哉くんの理性がどこまでもつか、じゃないかな」
月子ちゃんは艶めかしい目で、ふふ、と笑った。
「萌先輩、わたしね。
絶対に哲哉くんを手に入れなきゃいけないの。……どうしてだと思う?」
さらに一歩近づく彼女に気圧され、わたしは一歩退いた。
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