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病室の端にあった丸椅子を二つ並べ、わたしと白井さんはベッドの傍らに腰掛けた。
ヒロシくんは、白井さんの名刺を目を輝かせながら見つめている。
「すげ。フリーライターの人なんて、会ったの初めてですよ」
「いやいや、そんな大したものじゃないよ。この業界じゃ、名乗ればみんなフリーライターなんだから」
すっかり気が合った2人の話が逸れて行きそうだったので、わたしは白井さんの脇腹をつついた。
「何があったのか、聞くんでしょ。早くしないと、祐希も下に置いて来ちゃってるし」
「ああ、そうだね」
白井さんは頷いて、
「…ねえ、ヒロシくん。どうして、火災現場に倒れていたのか、話、聞かせてくれないかな。僕ね、あの学校の連続不審火について記事を書こうと思ってるんだ。協力して貰えると助かるんだけど」
「あ、全然、いいっすよ。お役に立てるかは微妙ですけど」
ヒロシくんの軽いノリに心配になりながら、わたしは白井さんの邪魔をしないよう、隣で話を聞くことにした。
「まず、…どうして火事の現場に居合わせる事になったのか、話してくれる?」
「それは…」
ヒロシくんはちらり、とわたしを見てから、口を開いた。
「椎名の言う通り、…俺、一人で学校に忍び込んで、文化祭用の映像を校庭で撮ってたんです。
校舎の全景とか、この間燃えた、リサイクル小屋とか。
そしたら、体育館の方が赤く光ってるのに気づいて。
何だろうと思って駆け付けたら、体育館が燃えてるもんだから、もうびっくりして。
その場で慌てて119番に通報したんですよ」
「へえ、ヒロシくんが通報したんだ」
「はい」
「偉いね。よくパニックにならず、冷静に対応出来たね」
「いや…」
ヒロシくんは持ち上げられて、少し嬉しそうな顔をした。
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