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「それにしても、…すごいわね、彼女」
「え?」
わたしが振り向くと、ゆかり先生は少し声を落として、ふふ、といたずらっぽく笑った。
「春山先生のこと、大好きみたいね。なんだか、わたしが居たら申し訳ないような雰囲気だったわよ」
「……」
無邪気なゆかり先生の言葉にさらにダメージを受けたわたしは、いたたまれない気持ちでベッドを離れた。
「もう、行くの?」
ゆかり先生が不思議そうに聞く。
「はい…。月子ちゃんの様子を聞きに来ただけなので」
「そう」
ゆかり先生は微笑むと、デスクの方に向き直った。
わたしは何気なくその手元を見て、…思わず声を上げそうになった。
先生が、身体の陰に置いていた物を手に取り、デスクの一番深い引き出しに素早く放り込む。
さらに凝視しようとした時には、引き出しは閉じられていた。
保健室を出て、薄暗くなって来た廊下を進みながら、わたしの鼓動が激しさを増して行く。
あれはたしか…。
記憶を頼りに、それの形や色をもう一度思い出す。
…すごく、似てる…。
…ゆかり先生が引き出しに放り込んだ、黒いもの。
それは、ヒロシくんが撮影の時に使っていたヒップバッグに、そっくりだった。
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