-3-

9/9

1118人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
「それにしても、…すごいわね、彼女」 「え?」  わたしが振り向くと、ゆかり先生は少し声を落として、ふふ、といたずらっぽく笑った。 「春山先生のこと、大好きみたいね。なんだか、わたしが居たら申し訳ないような雰囲気だったわよ」 「……」  無邪気なゆかり先生の言葉にさらにダメージを受けたわたしは、いたたまれない気持ちでベッドを離れた。 「もう、行くの?」  ゆかり先生が不思議そうに聞く。 「はい…。月子ちゃんの様子を聞きに来ただけなので」 「そう」  ゆかり先生は微笑むと、デスクの方に向き直った。  わたしは何気なくその手元を見て、…思わず声を上げそうになった。  先生が、身体の陰に置いていた物を手に取り、デスクの一番深い引き出しに素早く放り込む。  さらに凝視しようとした時には、引き出しは閉じられていた。  保健室を出て、薄暗くなって来た廊下を進みながら、わたしの鼓動が激しさを増して行く。  あれはたしか…。  記憶を頼りに、それの形や色をもう一度思い出す。  …すごく、似てる…。  …ゆかり先生が引き出しに放り込んだ、黒いもの。  それは、ヒロシくんが撮影の時に使っていたヒップバッグに、そっくりだった。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1118人が本棚に入れています
本棚に追加