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 塾の自習室を出る頃、すでに時計の針は9時すぎを差していた。  思っていた以上の風の冷たさに身震いして、身体の前で鞄を抱きしめる。  わたしは、少し足早にバス停へと向かった。  家のすぐ近所に停留所があるので、塾の帰りだけはいつもバスを利用している。  この時間は車内も空いているので、バス待ちの時間が短く済めばかなり楽チンな交通手段なのだ。  塾を出たばかりのわたしの足取りは、軽かった。  今日は、かなり身のある勉強時間だったと思う。  色々と、考えたくない事を抑えつけながらの勉強だったので、逆に集中できたのかもしれない。  始めは勢いよく歩いていたものの、…塾から離れるにつれ、さっき見た光景が再び頭の中を占め始め、わたしの足取りは次第に重くなって行った。  時間が経ってみると、…自分の見たものが本当にヒップバッグだったのか、…自信が少しずつ、揺らぎ始めて行くのを感じる。  でも、もし。  あれが本当にヒロシくんの物だったとしたら。  そこから導き出される答えは、わたしには抱えきれないほど、恐ろしいものだった。  考え始めると、他にも、その疑いを裏付けるような事実が思い出される。  体育教師である小林先生は確か、――柔道の有段者だった。
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