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『こんばんは』  この5文字を打ったところで、わたしの手は止まっていた。  どんな言葉を打とうか、続きが全く浮かんでこない。  …ううん、…違う。  浮かんでくる言葉なら、ある。  ただそれが、打ってはいけない言葉なだけで…。 『今すぐ、会いたい』  一度打ってじっと眺めてから、ゆっくりと消去する。  こんなメールを送ったら、…きっと、返信を待つ間、身体がもたない。  わたしの事だから、…色々な返信パターンを想定しながら悶々と過ごすうちに、送ったことを後悔するに決まってる。  それに、…月子ちゃんと比べたら…。  わたしと先生の距離は、こんな我儘を言えるほど、…近くない。  結局、わたしは携帯を閉じた。  エンジン音を聞き、右手に視線を送ると、見慣れたバスが近づいて来るのが見えた。  よいしょと立ち上がり、昇降口の位置に向かう。  その時、手の中で携帯が振動した。
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