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「萌、ピンクの花って、あとどのくらい必要?」 「えっと、…紙がこれしか残ってないから、もうすぐ終わり。」 「うっし。楽勝っ」  彩加の作った花が入ったカゴを覗き込むと、…使用前にもかかわらず、すでにだいぶくたびれて見える。  野生の勘で作り上げられた個性的な形を見て、彩加の仕事がやけに早いことに納得した。  ふわふわの白い薄紙を織りながら、わたしは保健室で見た黒い物体を頭の中でコネコネと捏ね回していた。  一夜明けてみると、わたしの記憶の中に残るそれは、さらに曖昧なものになっていた。  ゆかり先生があれを隠したがっていたことは、間違いないと思うんだけど…。 「見間違い…なのかなあ…」  わたしがぼそっと呟くと、彩加は手元から目を上げ、わたしの顔を見た。 「だって、…いくらなんでも、教師が生徒を襲うって、…あり得なくない?」 「そうだよね…。うん…」 「…第一、小林先生は…」  言いかけてから、彩加は周囲を見回した。  教室にはクラスの女子だけが残り、いくつかのグループに分かれ、かたまって作業していた。  わたしたち2人は一番端の離れた席に座っているので、小声であれば、話を聞かれる心配はなさそうだった。 「…小林先生は、ヒロシが自分たちの秘密を握ってる事を、どうやって知ったって言うの?」 「んー…」  そう。  さっきさりげなくヒロシくんに聞いたら、あの映像は未だに、ほかの誰にも見せたことがないと言っていた。  そのテープの存在さえも知らない小林先生が、ヒロシくんのヒップバッグを奪う理由は無い。
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