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放送部室のドアを開けると、更科くんの姿があった。
田辺くんの後に続いて部屋に入ったわたしの顔を見て、目を丸くする。
「あれ。どうしちゃったの、萌。目、真っ赤」
「いーから、聞くなって」
田辺くんが忌々しそうに言うと、更科くんはからかうように、
「あーらら。田辺先輩、いーけないんだっ」
「うるせー」
「萌先輩、…田辺先輩に、苛められた?」
「なわけないだろ。…椎名。とりあえず、座って」
田辺くんが椅子を引いてくれて、わたしの背中を支えるように促す。
涙は引っ込んだけれど、ひとしきり泣いた後なので、わたしはやや放心状態だった。
ハンカチを口元に当てたままボーッとしていると、向かいの席から更科くんがわたしの顔を覗き込んだ。
「マジ、萌先輩の泣き顔、かわいー。待ち受けにしよっと」
そう言うと、いきなり携帯をわたしに向け、パシャリと写メを撮った。
「おまえっ。何やって…」
田辺くんが携帯を取り上げようとすると、更科くんは素早く身を引き、にっこり笑った。
「俺、見ましたよさっき。廊下の窓から。
春山先生が月子を抱えて、渡り廊下を走って行くところ。
あれっていわゆるお姫様だっこですよね。うまくやるなあ、月子も」
「違うの……」
わたしは小さな声で言った。
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