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 薄暗い店内を見渡すと、いつの間にかほとんどのテーブルが埋まっていた。客は全て、スーツ姿のサラリーマンやOLたちのようだった。  そこには、わたしの知らない、大人たちの空間が広がっている。  この未知の雰囲気への憧れは、確かにあるけれど、…正直、まだ当分、足を踏み入れたくないような、そんな気持ちの方が大きかった。 「白井さん、…あの女の人、彼女なの?」  祐希が小声で、冷やかすように言う。 「んー、まあ昔、そんな時期もあったかな、って感じ?」 「今は?」 「今は、そうだなあ。…客と店員、かな。ただの」 「へえ」 「…いや…。…昔からずっと、客と店員、だったのかも。銀座のホステスの心の内なんて、男ごときが簡単に読めるものじゃないからさ」 「……?」  祐希はよく分からない顔をしている。 「大人の恋愛っていうのは面倒でね。 単純な恋人同士、っていう関係以外の、やっかいな繋がりも、存在するんだよ。 そして、やがて、相手に対して誠実さを求めることを、諦めてしまうんだ。 自分が深入りして、傷つく事を、恐れてね。 だから時々、清らかなものに触れて自分の身を清めたくなるのかもしれないね」  祐希からの問いかけに対する答えのはずなのに、…白井さんは、わたしの目を真っ直ぐに見つめながらそう言った。  寂しさをにじませるその瞳に、なぜか胸をざわ、と揺さ振られ、わたしは急いで目を逸らした。
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