-3-

3/8
1150人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
「今日の事も、嘘だと思った?」 「え?」 「今日が、誕生日だって」 「あ…」  わたしは笑って、 「すみません、思ってました。…でも、本当だったんですね」 「ホントだよ。…ただし、俺の誕生日じゃないけどね」 「…え?」 「妹の…美雪の、誕生日だったんだ」 「……」  白井さんは特に表情を変えず、前方に視線を送っている。 「俺が行ってた大学もあの店の近所でね。一人暮らしをしてたから、金があるときは、よく食いに行ってたんだ。  美雪の誕生日には、必ずあいつをこっちに呼んで、あの店でお祝いしたもんだよ。  …あいつが亡くなってからも、毎年、一人で祝っててさ」 「……」  何も言えず、わたしはただ黙って、白井さんの話を聞いて聞いていた。 「やめるタイミングが、分からないんだよね。こうなっちゃうと。  毎年、今年で最後にしようって思うのに…あいつが寂しがるんじゃないかとか、色々考えてるうちに耐えられなくなって、結局気付くとあの店にいるんだ」  白井さんは、いつも軽口を叩くのと同じような口調で、言葉を並べて行く。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!