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「今日の事も、嘘だと思った?」
「え?」
「今日が、誕生日だって」
「あ…」
わたしは笑って、
「すみません、思ってました。…でも、本当だったんですね」
「ホントだよ。…ただし、俺の誕生日じゃないけどね」
「…え?」
「妹の…美雪の、誕生日だったんだ」
「……」
白井さんは特に表情を変えず、前方に視線を送っている。
「俺が行ってた大学もあの店の近所でね。一人暮らしをしてたから、金があるときは、よく食いに行ってたんだ。
美雪の誕生日には、必ずあいつをこっちに呼んで、あの店でお祝いしたもんだよ。
…あいつが亡くなってからも、毎年、一人で祝っててさ」
「……」
何も言えず、わたしはただ黙って、白井さんの話を聞いて聞いていた。
「やめるタイミングが、分からないんだよね。こうなっちゃうと。
毎年、今年で最後にしようって思うのに…あいつが寂しがるんじゃないかとか、色々考えてるうちに耐えられなくなって、結局気付くとあの店にいるんだ」
白井さんは、いつも軽口を叩くのと同じような口調で、言葉を並べて行く。
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