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「でも、……さすがに最近、辛いっていうか。
年を追うごとに、あいつの面影が自分の中から失われて行って、…代わりに、なにも出来なかったっていう後悔ばかりが大きく膨らんで行くんだよね。
はじめは、あいつを忘れたくなくて、お祝いしてたはずなのに、…今は、…まるで、これが罪滅ぼしか、懺悔の儀式みたいになってて。
そんな気持ちで祝われても、困るよな、あいつも。」
白井さんの明るい声が、逆により深い哀しみを感じさせる。
「時々、逃げ出したくなるんだ、あいつの影から。
美雪のこと、記憶の中から追い出して、全部忘れられたら、どんなに楽だろうって。
ひどい兄貴だと思わない?…それじゃあ、あいつがあまりにも、可哀相だろ?
だから、……途中でやめちゃうわけには、いかないんだわ。
色々と決着をつけるまでは、ね」
わたしは俯いて話を聞きながら、握り締めた自分の手を見つめていた。
白井さんが過去を引きずっている事は分かっていたけど、――こんな風に、自分を責めているとは思っていなかった。
妹さんが亡くなってから随分経つのに、そんなにも長い間、怒りのエネルギーを保つことはきっと、難しい。
その負のパワーを持続させるために、白井さんはあえて自分を責め、奮い立たせてきたのかもしれない。
そして、…そんな毎日はおそらく、想像を絶するほど苦しいものだったはずだ。
……白井さんの言う決着って、一体何なんだろう。
月子ちゃんの罪を明らかにしたい、と、白井さんは言っていた。
…だけど…。
月子ちゃんが、…もし本当に、罪を犯していたとして。
それで彼女が捕まれば、それが決着と、本当に言えるのだろうか。
白井さんの心は、……それで本当に、解放されるのだろうか。
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