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「妹さんは、それを、望んでるのかな」
白井さんは黙って、運転を続けた。
わたしの口から小さく洩れた言葉は、白井さんの耳には入らなかったようだった。
家の前に差し掛かると、知らない車が門の傍に停まっているのが見えた。
停車するスペースが残されていなかったので、白井さんは裏手に回り、家のすぐ近くにある公園の脇に、車を停めた。
「ここから歩いて行ける?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
シートベルトを外し、祐希を起こすため、後ろに身を乗り出そうとした時、突然、白井さんの手がわたしの肩を掴んだ。
声を上げそうになった私の口に、白井さんが素早く指先を添える。
わたしは目を見開いて、身体を強張らせた。
「…萌ちゃん、…教えてくれないかな」
至近距離で見ると、白井さんは、…痛々しいほど疲れ切った目をしていた。
電灯の光が反射して、まるで泣いているように見え、わたしはその輝きに胸を突かれた。
「…それなら、美雪は、…俺に、何を望んでいると思う?
俺に、…どうしてほしいって、願ってると思う…?」
囁くような声が、…いつもの白井さんとは別人のもののように、力なく響く。
唇から白井さんの指が離れて、…わたしは今、自分が答えを促されている事に気付いた。
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