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わたしはすぐに、言わなければよかったと後悔した。
…部外者が、…簡単に口出しすることじゃないのに、…わたし…。
ゆっくりと白井さんが身体を引く。
顔を上げると、目の前で、白井さんがわたしの顔を見つめていた。
「…お前…。…いい女だな」
ボソ、という呟き。
…初めて、白井さんが素で発した声を、聞いた気がした。
不覚にも、心臓がドクドクと波打ち、わたしは思わず後ずさった。
白井さんはニッと笑って、
「…あ。…今、チューしてあげたいって、思った?」
「…思いませんっ」
動揺してしまったことが悔しくて、わたしは白井さんの位置から180度反対側に、ぷいっと顔を向けた。
そこに、タイミング良く、ううーん、という呻き声が上がり、わたしたちは同時に後ろを振り返った。
座席の間から、祐希がひょこっと顔を出す。
「あれえ?…ここ、どこだっけ…」
目を擦り、呑気にキョロキョロしている祐希の顔を見ながら、わたしは目撃されずに済んで良かったと、密かに安堵のため息をついた。
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