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「おつかれ、萌」
少し困ったような顔をして、更科くんがわたしの頭をくしゃくしゃっと撫でる。
「…おつかれさま…」
ぼさぼさにされた髪を直す気力もなく、わたしはブースから重い足取りで出た。
他の部員たちも、今のわたしの放送での数々の失敗を耳にし、気を使っているようだった。
「おつかれさまでーす」
月子ちゃんは、足取り軽く、わたしを追い越して行く。
「春山先生っ」
月子ちゃんは、トトト、と先生の元に走り寄った。
「今日の放送、どうでした?」
「…まあ、…良くはなかったね」
先生の声に、わたしは顔を上げた。
少し硬い表情をした先生が、わたしを見つめている。
「…二人とも、…分かってると思うから、細かいことは言わないけど。…ちゃんと自分で反省、出来るよね?」
放送は――最後まで最悪だった。
話はかみ合わないし、月子ちゃんはのらりくらりと遠まわしにわたしを攻撃するし、それに動揺したわたしが段取りを間違えるし――。
いくら月子ちゃんから揺さ振られたとしても、2年半もやってきたわたしが翻弄され、うまく進行出来なかったというのは力不足以外の何ものでもない。
「すみませんでした…」
わたしがしゅんとして頭を下げると、更科くんが横から手を伸ばし、私の肩を抱いた。
「元気出して、萌。俺が元気づけてあげるからさ」
「いいよ、……ちょ、ちょっと、離して……」
わたしがもぞもぞしているうちに、先生はドアを開け、さっさと出て行ってしまった。
…あーあ…。
わたしはがっくりと項垂れた。
引退直前に、こんな失敗するなんて…。
わたしは更科くんの腕をくぐって抜け出すと、ため息をつきながら、荷物をまとめ始めた。
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