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「生徒を制服姿で連れ回すわけにいかないから、俺んちでいい?」
わたしは驚きのあまり、悲鳴をあげそうになった。
…い、…今、何て…?
「実家のカレー、絶品だから。ただし、…けっこう辛口だけど。…それでよければ」
「え…」
えええええええっ。
「お、お邪魔させて頂きます…」
「ん」
…これは、…現実?
う…。…嘘みたい…。どうして…。
いつももどかしいくらいガードが固い先生が、…突然、実家にご招待って…。
福引で一等を当てて、ご家族でハワイにご招待、よりも嬉しい…っ。
二等の地デジ対応テレビより、…三等の魚沼産コシヒカリ一俵より…っ!!
……いやっ。ちょっと待って。
手放しで喜ぼうとするわたしを、慌てて一旦、引き戻す。
…油断しちゃだめ。
もしかしたら、何かウラが…。
ていうか、そもそも、この人、本当に春山先生…?
先生の顔をまじまじと見つめても、…いつもの事だけれど、その表情からは何も読み取ることが出来ない。
サイドブレーキに手をかけた先生が、ふとこちらを見た。
その手がスッと伸びて来て、わたしの頬に触れる。
「今来たなんて、嘘ばっか。めちゃめちゃ、冷たい」
先生の暖かな手の温度と、わたしを見つめる目の優しさに、…冷たかったはずの頬が、とろけそうに熱くなる。
「二人で一緒に入ろうか。…こたつ」
「……。」
「なんで、赤くなるの?」
からかうように顔を覗き込み、わたしの頭をくしゃっと撫でてから、先生はサイドブレーキを外した。
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