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ここまで少しもぶれることなく進めた足が、僅かに止まりました。
迷いがあるわけではありません。
葛藤でもありません。
見つけてしまったのです。
門の近く、そびえる塔の脇。
およそ菜園とは呼べない程のこじんまりとしたスペースがあります。
そして、その真ん中にひとつだけ「それ」が佇んでいました。
水気のない干からびたその土は、まさに今のこの国そのものです。
しかし、そこから生えているのはこの世のものとは思えない鮮やかで妖しい輝きを持つ花でした。
姫は花に詳しいわけではありません。
けれど、この花が普通の花ではないことくらい容易に見当がつきました。
パンにキャンディーが突き刺さっているような、なんとも言えない違和感がこみ上げてきて姫はその場を後にしました。
姫は城に入ると、また的確に容赦なく歩を進めます。
ところが、広い廊下を渡り切る前に、また足を止めてしまいました。
見つめる先は他の部屋よりもふた周りも小さく、みすぼらしい家具しか見当たらない寂しい場所でした。
姫が何を見ているのか、それはわかりません。
澱んだ空気から止まった時間を垣間見ようとしているのかもしれません。
その瞳はただ虚ろに部屋のあちこちを眺めて回ります。
一通り眺めると、もう結構だと言わんばかりに背を向けて立ち去りました。
目指すは城の最深部。
殺戮を繰り返す、孤立した王様のもとにたどり着くため。
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