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澱んだ空気の中で何かが降り立ちました。
異質とも呼べるその気配は、今まさに王国の門に佇んでいます。
姫です。
彼女が何を思い、どうして寂れた王国に足を運んだのか、誰にもわかりません。
お腹がすいたから、食べ物を求めてやってきた?
旅を共にする仲間が欲しくなった?
けれど、そのどれもが今の姫には当てはまりそうにありません。
彼女はただ一点を見据えていました。
王国の真ん中、城のてっぺん。
孤独な王様が静かに暮らすその小窓を、死に絶えた猟犬の眼差しで捉えています。
決して視線を外すことはなく。
ただそこにたどり着くことが目的だと言わんばかりに、姫は進んでいきます。
その足に一切の迷いはありません。
城下街には未だに住民の暮らしぶりがありありと残されています。
作りかけの昼食。
酌み交わされた杯。
いないのは人間だけ。
異様な光景に異質な存在。
手品のように人が消えた街並みを、闊歩する一つの影。
細い路地をすいすいと抜け、ついに彼のいる城にたどり着きました。
ここまでの道のりに地図など必要ありません。
しかし、導かれているようだとも言えません。
姫は知っているのです。
彼がどこにいて、どうすれば会えるのか、恐らくその全てを。
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