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その王国には自由が存在しません。
この国にとっての法律は彼自身で、従わない者には容赦のない死が待っています。
彼はこの国を治める王様です。
若くして王様になった彼は、何かにとりつかれたように罪のない人々を次々と裁き始めます。
止めようとした者は見せしめに処刑されました。
生きることも死ぬことも全てが彼氏第。
そんな恐ろしい空気の中で、人々は彼から逃れようと必死です。
しかし彼は激怒して王国の外に通ずる門を閉ざし、人々の出入りを禁じてしまいました。
王国を変えるべく、人々は手を取り合い立ち上がります。
それぞれが武器をもちより、城に詰め寄りました。
これが国民の見せた最初で最後の抵抗だったと言えるかもしれません。
けれど、訓練を積んだ衛兵に適うはずもなく人々は捕らえられてしまいます。
彼は呆れたといった調子で全員の処刑を命じました。
そこには慈悲の欠片もありません。
彼には理解ができないのでした。
なぜ人々が自分を嫌い盾突くのか。
どうして恐れ戦くのか。
そして王様は独りきりになりました。
当然のことでした。
国民も召使いも側近も構わず処刑してしまったからです。
残された僅かな召使い達も、命からがら逃げのびたのでしょう。
孤独は彼を静かに責め立てます。
けれど、彼は国を捨てることはありませんでした。
捨てられなかったのです。
愛着があったわけではありません。
たった独りの王様にとって、城はあまりに広く寂しいものでした。
しかし、彼はこれまでになく落ち着いていました。
それがどうしてなのか、今の彼にはわかりません。
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