序章

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ーーーーどこだろう、ここは。 目を開けると、そこは深い紺碧の世界。 私の視界に広がるのは、広く深い“碧”。 身に纏う衣服は流れるように漂っていて、私の身体はふらふらとさまようようにたゆたっている。 ーーーーー水の、なか?ーーー まとわりつく冷たい感覚に、朧気ながらも自分は水の中に沈んでいるのだと確信した。 いつからかは知らない。誰のせいかも知らないけれど、私は人魚さながら水の中で生きている。 息も苦しくない。寒くもなく暑くもない。 お腹も空いていないし、上がりたいとも思わない。 「快適、だなぁ……」 もしかしたら人魚ってこんな感じなのかも。 今自分が置かれている状況に、意外にも冷静な自分がいる。 …………それにしても、かなり深いところにいるのだろうか。 回りを見渡しても私以外の何かはいなくて光の一筋も見えない。 まるで、私一人が隔絶された世界に閉じ込められたよう。 きっと、どれだけもがいても上がれはしない。 ーーーーここの方が、私にはお似合いだ。 誰の助けも借りず、このまま奈落におちてゆくんだろう。一生、光も垣間見ないまま。 それでいい。それでこそ、“私にふさわしい生き方”なのだから。
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