序章

3/6
前へ
/8ページ
次へ
自嘲の笑みを浮かべた刹那ーーーー 『紅(アカ)……おいで、上がっておいで、紅…』 「!?」 誰かが、優しく私の名前…紅、と呼んだ。 驚いて辺りを見渡す。けれど、そこには 確かに私一人しかいない。 …………誰? 思わず上を見上げるも、相変わらずの闇。 「だ、誰……?」 『僕だよ。紅、おいで。此所は怖くなんてない。さあ…』 聞きなれない声。私に親しみを持つかのような話し方。 諭すように問いかけるその声は、確かに上からのもの。 「やだ…誰?誰なの?」 誰かも知らずについていけるわけがない。 …………私を何処に連れていくの? 地獄、天国、黄泉……。 考えるほどに、声との距離が離れていく。 『さぁ、紅……僕に掴まるんだ』 刹那、水を掻き分けるように差し出された腕。 「!?誰!?」 ついていってはいけない。この腕にしがみついてはいけない。 ………そう心では分かっているのに、私は恐る恐るその腕に指を絡ませた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加