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騒がしそうな、音がする。
人が怒鳴る声、荒々しい足音………それに、「殺してしまおうか」と呟く声ーーーー。
(!?)
私はその声に反応し、布団を蹴散らし跳ね起きた。が。
見渡す限り、そこは自分の知る空間ではない。殺風景な和室に、薄汚れた木板の天井。
そして、腰紐の解けかかる、乱雑にきせられた薄い襦袢。
ここは、一体どこなんだろう。
様子を見ようと障子に手を掛けると同時に、勢いよく反対側の襖が開いた。
「だ、誰…!?」
驚きのあまり尻餅をついてしまい、情けない転び方をしてしまう。
……その様子に、襖を開けたらしき人物は、苦笑いとも嘲笑ともつかない微笑を浮かべた。
「あ、すまん…驚かせる気は無かったんだが……具合はどうだ?」
やっぱり、この空間は私が見慣れた物じゃない。
目の前に佇む男の人の服装は、明らかに私がいる時代のものとは掛け離れていた。
墨色の袖のない着物に、剣道で身につけるような藍色の袴。
……そして何より、腰には時代劇で見るような刀が添えられていた。
何もかもが見慣れないもので、私は思わずその人を食い入るように見つめてしまう。
「な、なぁ…嬢ちゃん」
「は、はい!」
「そんなに見られても、めぼしい物は出せないんだが…」
「あっ……」
しまった……。あまりにも私が見つめるあまりに、その人には物を乞うように見られていたらしい。
(は、恥ずかしい…)
あまりの恥ずかしさに顔を手で覆う。絶対に誤解された…謝罪の言葉すら出ない。恥ずかしすぎる…。
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