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「……」
カーテンなんてないこの部屋に射し込む月の光の中で、枕元のタンマツに浮かび上がる人工的な数字はどこか、…ああそうだ、アンバランスってやつだ。
明るい街の火さえ眠りにつくような、そんな時間。基本一回寝てしまえば朝まで起きる事のない俺の目が覚めるには不釣り合いな時間。
(…こんな時間まで)
お前。何してんだよ。
いつからだろう。
古びたアパートの階段を歩くその音に気付いたのは…
多分、普通なら誰も気付かない。
その音はまるで、警戒心の強い野良猫のように重みも、気配さえ感じさせないのだから。
だが
(いったい何年お前と過ごしてたと思うんだよ…)
俺には、わかる。
その音も、感情も、全部ないように歩く“亡霊”の足音が…
(…忘れたくても…忘れねえもんだな…)
――…誰のものかも
それに決まった時間や曜日等の条件はない。
その間隔は一週間だったり、半年だったり。時には三日と空けない日もあった。
唯一。共通するのは。
その足音が、この部屋の中で聞こえた事がない。それだけだ。
(………なあ)
その足音はいつも、薄く冷たい固まりの前で止まるのに、その手が、その口が、こちらに呼び掛けて来る事はない。
(今………どんな顔してんだよ?)
どんなに激しい雫が降る夜も
「…はっ、さみい…」
どんなに冷たく凍る夜だって
足音はただ。この部屋の前で止まるだけ。
(お前もさみいのか…)
無意識に抱き込んだ自分の躰。また霞んでいく視界の中で誰かの顔だけを思い出す。
(…んな顔…すんなよ)
それが誰かわからないのに、その目だけがこっちを見ている気がするから手を伸ばす。
まるでシンシンと降り続けるそれのように
降り積もる哀しみを宿した目をしたソイツの、その手を掴みたくて
(…早く)
でけぇ癖に痩せっぽっちの躰を暖めたようと
(俺の名前を呼べよ…)
完全な闇に消えた足音に
何も出来ずに、ただ願う
早く。早くと
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