第零章 夢と現実。

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 これはあとあと知ったのだが、気に入った異性がいたらついつい虐めたくなってしまうというあれと同等の理由からだった。  それに憤りを感じたが胸にしまい込むことにした。 「生き返る、か。俺はアーケミヤに生まれるということか?」 「君はもう生まれた。それから数十年の空白を過ごし今と同じ肉体年齢まで成長しているよ。あとは覚醒を待つだけ」 「……」 「言っていることが分からないだろうし、ここで答えても覚醒する頃にはここでの記憶、過去に生きていたという記憶は全て抹消される」  つまり生前の記憶すべてが消えてなくなるということだ。 「これから君は本物のアーケミヤで生きていくことになるよ。知識はあるけど記憶がない……そんな不安が君を襲うかもしれないけど、頑張ってね」  少しずつ彼女の声が遠くなっていく。 「最後に……わたしの……じゃあね、───君」  懐かしい名だ。  それを最後に俺の意識は完全にシャットダウンを迎えた。 01 覚醒。  何だかとても懐かしい夢を見ていたような気がする。  青年は目を覚ますとそんな不思議な気持ちにさせられていた。まるで過去に何かあったかように……そんな懐かしい感じだ。  どんな夢を見ていたかまでは思い出せないがそれでも懐かしい。 「オルバ渓谷を越えて、更に西へ。そもそも西はどっちだ?」  青年は手に持っている地図とにらめっこをしながら、同時に磁場の影響で完全に方位を失っている方位磁石に苛立ちを覚えていた。 「この調子だと町に着くのはいつになることだろうな。それにしても証明書を発行してくれるところが王都にしかないとは……」  この青年を証明するものを何一つ持ち合わせてはいなかった。普通は生まれた段階で両親が近くのギルドに登録するためわざわざ王都なんかに行く必要などない。  しかしこの青年や生まれてすぐに捨てられてしまった子供に関しては自ら王都に出向いて証明書を発行してもらわないといけない。  そうしなければ、この世界でまともに仕事に就くことも出来ない。 「オルバ渓谷って意外と長いよな」  崖のぼりをしながら青年はそんなことを呟いていた。  話は戻るが王都に出向いて証明書を作るのには一切お金がかからない。それはその人物が大抵の場合お金を持っていないためだ。  だが、この青年は少し違っていた。
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