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だが、止まることのない青年の行く手に火球が飛んできた。
「ファイアボールか。危ないだろ、人に向けたら」
青年はそこでようやく止まり、話しかけてきた相手を見た。人数は三人。見るからに典型的なゴロツキだ。
「ナニナニ?そのこんなの余裕って顔は?」
そんな顔をした覚えがなく、内心面倒だなと思っていた。
「……すまんが、こっちは急いでいるんだ。そのためにオルバ渓谷も抜けたというのに」
「お、オルバ渓谷」
「兄貴、アイツなんかやばいっすよ」
「怯んじゃダメでゴワス」
青年はため息を漏らすと
「そろそろいいか?俺は急いでいる」
青年は拳を強く握り締めると
「もし通さないというなら押し通るまで、だが?」
殺気を拳に込め相手に向ける。
「ひっいいい。め、滅相も御座いません」
それだけ言うとそそくさとどこかへ行ってしまった。逃げて行った方向的に王都の方だ。また会いそうな気がすると愚痴を漏らしながら殺気を静める。
「あまり人に殺気を向けるというのは気持ちのいいものではないな」
戦うということ自体は否定していない。ただあまり好まないというだけで。
先ほどのゴロツキを追ってというわけではないが、青年は王都の城門前まで来ていた。
「そこの男、止まれ」
「また止まれか」
「何か言ったか?」
「いんや、何も」
そうかならいいと門番は入国審査書というものを青年に渡した。
「随分服が汚れているみたいだが、どこから来た?」
「オルバ渓谷を越えて。東方にある小さな島からだよ」
「オルバ渓谷を越えて……なるほどよく見ればいい体付きをしている。よければうちに隊に入らないか?」
「ははは。冗談は止してくれ。とても訓練なんかについて行く自信はないよ……それに王都には観光のようなもので来たんだ」
青年は門番と談笑をしながら入国審査書にサインをした。
「ようこそ、王都シュバリエイツへ」
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