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大きな右手をドアに、左手を助手席のヘッドレストに置き、白井さんはわたしを腕の間に閉じ込めた。
目の前の切なげな表情に、わたしはただ身を竦ませるしかなかった。
じっと見下ろす白井さんの目が自信なく揺れているのが分かる。
「まさか俺が、……こんなお子様にハマるとはね」
独り言のように呟くと、白井さんはフッと笑った。
「ましてや完全に片思い、だなんて……恥ずかしくて、誰にも言えない」
「しらいさ…」
顔が近づいて来て、わたしは慌てて顔を背けた。
こめかみの辺りに、ちゅっとキスを落とされ、思わず目をつぶる。
少し間があって、今度は指先が、わたしの髪をさらりと撫でた。
「……また嫌われちゃうな、こんなことしたら」
ぎゅっと固く目を閉じたまま横を向いていると、不意に狭く囲まれていた空間が解放されるのを感じた。
目を開けると同時に、ガチャリ、とドアロックを外す音。
「またね、萌ちゃん」
運転席で、にっこり笑顔を浮かべていたのは、すでにいつもの白井さんだった。
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