穏やかな日々

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「ただいま」 夕食の準備をしていると玄関のドアの音と共に仕事から帰ってきたコウの声がした。 私は身体を少しずらしてキッチンからリビングをそっと覗きながら「おかえり」と言った。 リビングではコウがテーブルに鞄を置きネクタイを緩めている。 …コウが帰ってきた。 ただそれだけなのになんか嬉しくて、顔がニヤニヤしてしまう。 私は慌ててキッチンに戻ると両手で顔を覆った。 …ヤバい。顔がニヤついている。 こんな顔コウに見せたくない。絶対にバカにされる。 それだけは避けたい。 うん。よしっ何もなかったように夕食の準備をしよう。 「何笑ってんの?」 私はコンロに火をつけようとすると背中越しにコウの声が聞こえてきた。 その声に思わず体がビクッとなってしまう。 「ゲッ…いや、何でもないです」 私は何もなかったように言った…つもりだけど声は上擦っているし動きもぎこちない。 どう考えても怪しいのに、でもコウはそんな私の反応など気にしてないように言った。 「ふーん。今日の飯何?」 「今日は麻婆豆腐食べたいなぁって思って。うんと辛いの」 「いいね」 「だから着替えてきなよ。用意しているから」 「ん」 コウは短く返事をすると自分の部屋へと戻って行った。
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