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その夜、早速コウは電話をくれた。
きっと私を心配してかけてきてくれたのだろう。
リビングでテレビを見ていた私はコウからの着信だとわかるとソファにごろんとなるとテレビを消した。
だってコウの声がテレビの音で聞こえないのは嫌だから。
コウの声だけ聞きたいから。
私は嬉しくて嬉しくてドキドキする胸を押さえながら着信ボタンを押した。
電話の向こうから聞こえてくるコウの声がくすぐったく感じる。
その会話は恋人達の甘い囁きではなく普通の会話だけど、私はその方が楽だった。
「ちゃんと飯食ったか?」
「食べたわよ。そっちはどう?」
「暖かい。シャツ1枚で十分」
「本当に?こっちはまだ寒くてコートが必要なのに。同じ日本なのに不思議だね」
「そうだな」
コウはそう言うと「ふふっ」と笑った。
それからも時間があるとコウは毎日のように電話をくれた。
電話から聞こえてくるコウの声は相変わらず無愛想なんだけど。
話す内容もいたって普通の事ばかりなんだけど。
東京と沖縄と離れているから簡単には会えないから。
私は電話をかけて来てくれるコウの気持ちが嬉しかった。
こうしてコウの声を耳にすると不思議とすぐ近くにいるように感じる。
目を閉じて話すと隣にいるような錯覚さえしてしまう。
離れていてもコウの優しさを感じる事が出来る。
あの時感じた不安は何だったのだろう?
確かにあの時はもう二度と会えないんじゃないかって思ったけど。
こうして話しているとそんな気持ちも何処か遠くに飛んでいく。
そりゃあそうだよね。ただの出張だもん。
きっとしばらく会えなくなるから不安だったんだよ。
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