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それから半年、俺は何事もなく毎日を送っていた。
理沙がいなくなって仕事に不安を感じていたが、それなりに熟している。
もちろん忙しくて大変だが苦には感じなかった。
やはり理沙の独立が俺にとってかなりの精神的な負担だったのだろう。
解放された嬉しさの方が勝っていた。
それに会社も結婚については何も言ってこなかった。
きっと辞めずに残った事で満足だったのだろう。
まぁ俺からも特に話さないしな。
この半年間、小母さんからの連絡はなかった。
もしかしたら彼氏との結婚が決まったのかもしれない。
いや、結婚したのかもしれない。
だからといって俺から連絡をするのも催促するようで嫌だった。
でも忘れたわけじゃない。
連絡がこないから半ば諦めてもいた。
だからこのままダメになったとしても「しょうがないな」と思うようになっていた。
そんな時だ、小母さんから電話があったのは。
その日俺はいつもより早く家に帰ってのんびりしていた時に突然電話が鳴った。
こんな時間に誰だ?と思いながら見たら小母さんの名前だった。
その名前を見た瞬間、びっくりしてなかなか電話に出れなかった。
忘れかけていた想いが一気に目を覚ましてきたから。
俺は携帯電話の表示される小母さんの名前に胸を高鳴らせながら電話に出た。
「孝くん、あの約束だけど覚えてる?」
久しぶりに聞く小母さんの声はどこか緊張しているように聞こえた。
まぁそうだろう。普通の用件じゃないから。
小母さんの緊張した声に俺もつられて緊張してくる。
その時、俺の胸は最高潮にドキドキしていて、この電話が家の中で良かったと思った。
もし誰かが近くにいたら聞こえてしまう位に大きな音だったから。
「はい」
俺はゆっくりと低い声で返事をした。
すると小母さんは少し遠慮気味に言った。
「あのね、美羽彼氏と別れたんだって。それでだけど…いいかしら?」
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