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「伊田さん?それって前のクライアントの?」
俺は休憩室の壁に寄り掛かりながら言った。
そしてコーヒーを啜りながら伊田さんの顔を必死に思い出していた。
確か以前のクライアントで何度か打ち合わせをしたと思うが、どうも思い出せない。
でもどうして田中の口からクライアントの名前が出てくるんだ?
もう納品も請求も終わっているけどクレームか?
だとしたらコイツではなくて直接俺に来るはずなのに…何があったんだ?
すると田中は近くにある椅子に座ると俺を見ながらニヤリとした。
「お前と連絡取りたいんだって。相変わらずモテモテだな」
「は?」
「まっ。いいんじゃないの?会ってみるだけでもさ」
田中の言葉で何を言いたいのかやっとわかった。
そっか。コイツ俺に女を紹介しようとしているんだ。
田中と高科に結婚の話をして半年。
あれから入籍したとか何も報告していない。もちろん会社にもだ。
きっと報告できないのは結婚が無くなったからだと思っているのだろう。
まぁそう思うよな。
俺だってまだミウに会っただけで、まだ正式に返事をもらっていない。
だから今の時点では破談してない。…と思いたい。
でも田中にはそんな事わかるはずがない。
破談したとしか思ってないのだろう。
だからきっと俺が可哀想に思えて女を紹介しようとしたのか?
ったく余計な事をしやがって。
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