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「えっ?ああ…そうだけど」
「この前お会いしたの、覚えてます?」
その女は上目づかいに俺を見ながら言った。
この人、「この前会ったって…覚えてます?」って言うけど…会ったのか?
どう考えても記憶にない。
「覚えてない。どこで?」
「まぁ夜だったし、会社の人たちもいましたもんね。早坂さんの歓迎会の帰りにお見かけしているんですよ」
「ああ、あの時にいたんだ」
「私、池上涼子です。覚えてくださいね」
池上さんはそう言うと甘い砂糖菓子のように微笑んだ。
俺はその女の名前を聞いた瞬間、この人が元カレをふった人だとわかった。
確か涼子と言っていたし、それによくよく見ると離れたところから元カレの視線を感じる。
ふーん。そっか、この人なんだ。
「池上さんね」
「ふふふ。斉藤さんが羨ましいなぁ」
「なんで?」
「だってこんなに素敵な人と結婚したんですもの」
池上さんはそう言うと恥ずかしそうに手で顔を隠した。
…うわっ。この男子受けする振る舞い。
俺、正直苦手なんだよな。
早くミウの所に行きたいんだけど…。
でも池上さんは気づいていないみたいだ。
俺の気持ちなんて無視するかのように一方的に話し始めた。
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