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「だから引っ越しの話が出た時は正直すげー嫌だった」
コウはそう言うと凄く嫌そうな顔をした。
それは怒りを通り越して悲しそうにも見える。
もう20年も前に事なのに鮮明に記憶に残っているのだろう。
あまりにも辛そうに見えたから私は思わずコウの名前を呼んでしまった。
「…コウ?」
でもコウは話すのを止めない。
私は黙って聞くしかできなかった。
「ミウと離れるなんて考えられなかった。俺だけでも残りたかった。でも子供が何言っても無駄だよな、親の決めた事に従うしかできなかったよ」
「…」
「もう何もできないってわかった時、俺は自分からミウに言おうと思った。だから小母さんには黙ってて欲しいとお願いしたんだ。なのに結局引っ越すって言えなかった」
そう言うとコウは「はぁ」と溜息をついた。
子供は親の決めた事に従うしかできない。
しかも自分が伝えようとしていた事も言えなかった。
コウは自分の未熟さを痛感したんだ。
「あの時言ったのが俺の精一杯。あれは本気だったんだ」
「…」
「だからすぐに迎えに行こうと思ってた。でも…」
「でも?」
私が聞くとコウの瞳が曇った。
その瞬間コウが何を言いたいのかわかった。
と同時に聞かなきゃよかったと後悔した。
「両親が事故で亡くなったから行けなくなった。婆ちゃんと二人暮らしの俺にはどうする事も出来なかった」
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