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「と言う事でカニ食べませんか?」
部長の話が終わり、皆が自席に戻ろうとしていると華ちゃんが声を掛けてきた。
私は華ちゃんが何を言いたいのかわからなくて目を丸くしてキョトンとした。
「カニ?突然何言ってんの?」
「だってぇーイケメンが来るとばかり思って期待していたこの気持ちをどこにぶつければいいのかわからなくて」
「はぁ?」
「だーかーらー。カニの殻をパキッと爽快に割って、中からスルッとカニの身が出てくる。いいと思いません?」
華ちゃんはそう言うとうっとりとした顔をした。
確かにカニは美味しい。茹で蟹、焼き蟹、お刺身、お寿司…考えただけできりがない。
けど、だからって気軽に居酒屋に行くのと訳が違う。
きっと華ちゃんの事だ、カニ料理の店に行こうと言うに決まっている。
一人暮らしを始めて気づくが、この安月給では簡単に行く事なんかできない。
だから私はカニから話を逸らそうとした。
「いいと思うけど、気分転換ならバッテングセンターでいいんじゃないの?」
華ちゃんは私の言葉を聞くなり冷めた目をした。
そして「やれやれ」と言わんばかりに肩を竦めた。
「せんぱーい。バットやボールは食べれませんよ」
「わかってる」
私は華ちゃんの言い方にイラッとした。
…全く。そんなのわかっているよ。
でも華ちゃんには通じていないみたいだ。しつこく話を進めようとしている。
「でしょう。食べましょうよぉ」
「ま、たまには食べたいけど、高いじゃない」
すると華ちゃんは得意気な顔をしながら言った。
「ふふふ。じゃあご馳走するって言ったらどうします?」
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