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「先生……」
「なに……?」
「先生も、さびしいって、思う?」
「……」
「田辺くんとわたしが放送部からいなくなったら。先生も寂しい?」
先生はわたしの頭を優しく撫でた。
「そりゃ、寂しいよ。俺も二人の放送がすごく好きだからね」
「じゃあ……」
わたしはテーブルの上に置かれた先生の手に、手のひらを重ねた。
「木曜日、……わたしとここで会えなくなっちゃうことは…?」
「……」
先生は、フッと微笑んだ。
「寂しいよ。
――今まで、毎週木曜日が来るのが、すごく待ち遠しかったからね」
木曜の放課後。
先生と二人で過ごす、夕暮れの放送部室。
この時間が、先生にとっても特別なものだったことを、最後の木曜日、わたしは初めて知った。
目の前にあるのは、――西日を受け、ほんのりオレンジ色を混ぜたような、先生の優しい微笑み。
わたしはその笑顔を、涙で歪まないよう、必死で泣くのを堪えながら、
――大切に、丁寧に、胸に焼き付けた。
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