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その人はたぶん私が来た事に気づいていたのだろう。
でもこの場から離れる事なく夜空を見ている。
それはとても静かで気配なんか感じられなくて。
だから私はここに人がいるなんて全く気付かなかった。
…先客がいたんだ。
そんな事も気づかないで溜息なんかついちゃって恥ずかしい。
「すいません」
私がその人に一言謝りその場から離れようした。
するとその人は静かに微笑みながら言った。
「いいですよ。気にしないでください」
私はその人の顔を見て驚いた。
あ…この人、受付にいた女の人だ。
確か私と同じ位の年齢で長い黒髪が綺麗な大人しそうな人。
知的な感じでキャリアウーマンって感じなんだけど…。
でも今のその人の顔はさっきと感じが違う。
その人はお酒に酔っているのかやや赤い頬をしながら切なそうに夜空を見ている。
その顔はただ夜空を見ているだけなのに妙に艶があり色気を感じる。
でもこの人から感じる空気は優しくて穏やかで。
私は不思議だなぁと思いつつ、もう少しこの人と一緒にいたいと思った。
それに今戻ってもコウはきっとさっきの友人たちと話しているだろうし。
まだその中に入れる勇気もない。
だから私は戻るのを止めると夜空を見上げた。
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