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主人の事と聞いて、一瞬顔が引きつった。
きっと旦那の事なんだろうなと思ってたけど、実際にそうだったのかと思うと嫌気がさす。
できれば仕事の悩みの方が良かった。
彼女の口から旦那の事なんか聞きたくない。
でも彼女の深刻そうな顔を見ていると聞いてあげないといけないと思ってしまう。
だから俺はわざと意外そうな顔をしながら言った。
「喧嘩でもした?」
「いや、そうじゃなくて。ここ最近ずっと話してないんです」
「どうして?」
「仕事が忙しいらしくて」
「そうなんだ」
「でもやっぱり声を聞きたいと思って…だから電話くらいだったらと思うんですけど」
「別にいいんじゃない?電話しても」
俺はあっさりと答えるとコーヒーを口に運んだ。
そしてカウンターの目の前にある窓ガラスに視線を移すとぼんやりと外を見た。
…そんな事で悩んでいたんだ。
声を聞きたかったら電話したかったらすればいいだろ?
それだけじゃないか。
彼女の話を聞きながら俺の心はイライラしていた。
だったら俺はなんなんだよ。
こうして目の前に好きな人がいるのに…想いを伝える事が出来ない。
伝えてしまうとこの関係が壊れてしまう。
話が出来ない位で悩むなよ。
そのうち俺の中で嫌な奴が囁いた。
『彼女を困らせちゃいなよ』って。
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