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お目当ての本を手に取って表紙を見ていると突然声をかけられた。
「孝?」
ミウもその人が俺の名前を呼んだ事に気づいたのか俺と同時にその声のする方を振り向く。
すらっとした体型にやや茶色のショートボブ。
目鼻立ちもしっかりしていて意志の強そうな顔。
俺が一番会いたくない人。
そいつが俺の前で微笑んでいる。
俺は目の前にいるそいつを見た瞬間、驚いて思わず名前を呼んでしまった。
「理沙」
俺は言った瞬間その名前で呼んだ事を後悔した。
隣で不思議そうな顔をしているミウが目に入ったからだ。
…俺はバカだ。咄嗟とはいえ下の名前で呼ぶ事はないだろう。
それに理沙も「孝」と下の名前で呼んでいた。
この呼び方からきっとミウは疑問に思っているはずだ。
俺と理沙の関係を。
「ふふふ。やっぱりこの本、気になったんだ。私もなんだ」
理沙はミウの存在には気がついていないのか、持っている本を覗き込むように顔を近づけてきた。
それはまだ一緒に仕事をしていた時のように。
俺が結婚したのを忘れているかのように、恋人気取りで接してくる。
ミウは何も言わずに黙って見ている。
俺はこれ以上誤解させたくなかったから、理紗からスッと離れるとミウを見ながら言った。
「理沙、紹介するよ。妻のミウ」
「えっ?奥さんと一緒だったの?ごめんなさい、気がつかなかった。初めまして神野理沙(じんのりさ)です。彼とは以前会社で一緒に仕事をしていました」
理沙はミウがいる事に気がつくと一瞬慌てた顔をしたが直ぐに笑顔になり、言い終わると一礼した。
それは俺の知っている傲慢女王様の理沙ではなくて、品のある感じのいい素敵女子と言った感じだった。
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