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「……先生に対して、ですか」
「そう」
「む、無理…」
「さっきしてただろ、お客さんに」
「…だっ…だって、…あれは、仕事だから…」
「いいから、ちょっと試しに」
「…ダメだってば、…うまく出来ないし…」
「そこがいいんだろ。ほら、やってみろって」
「…や、無理ですって…ちょ、先生、顔、近すぎ…っ」
暗がりの中、小声で押し問答していると、突然、暗幕の割れ目から、彩加の顔だけが、にょきっと現れた。
二人でビクッと身体を引く。
「…センセ、神聖な文化祭の真っ最中に、生徒にセクハラすんの止めてもらえます?」
彩加の宙に浮いた首が、勝ち誇ったような表情を春山先生に向ける。
「……奈良崎さ」
「はい、なんでしょ」
「お前、田辺の前では、デレの割合の方がだいぶ大きいってほんと?」
「……」
「田辺にだけは、皆の前では絶対にしない顔、見せちゃうんだって?」
「……」
彩加の顔から表情が消え、――その直後、薄暗がりでも分かるほど一気に赤みが増した。
――そうだったんだ、彩加……。
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