1170人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
渡り廊下を突き当たり、左に折れようとして、わたしは咄嗟に身体を引いた。
…今のは…。
もう一度、そおっと覗いてみると、…放送部室の前で、向かい合う二つの影。
…更科くんと月子ちゃん…。
遠すぎて会話の内容は聞こえないけれど、その深刻そうな様子に、何となく足を踏み出すタイミングが掴めない。
…迷子放送の当番だし、早く放送部室に行かないと…。
素知らぬふりで出て行こうかどうしようか、迷っていると、…更科くんが手を伸ばし、月子ちゃんの身体を抱き寄せた。
…あ…っ。
わたしは急いで首を引っ込めた。
やがて、月子ちゃんが啜り泣く声が小さく聞こえてくる。
…うーわー…。これは…さらに出て行きづらい状況…。
わたしがどうしたものかと困り果てていると、渡り廊下をドカドカと歩く振動が伝わって来た。
そして、威勢のいい大きな声。
「…あれえ?椎名。何やってんの、こんなとこでコソコソと隠れちゃって」
「……」
――田辺くん……相変わらず、現れるタイミング……。
わたしはあちゃー、とおでこに手のひらを当てた。
最初のコメントを投稿しよう!