私があなたにできる事

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ホテルを出ると目の前にある大きな公園に向かった。 そこはオフィス街にある都市公園で膨大な敷地の中に野外音楽堂や図書館、テニスコートなどの施設も充実している所だ。 昼間はサラリーマンやOL達が噴水の前の椅子に座りお弁当を食べる姿を見かけるけど。 平日の夜である事とこの寒い時期のせいか人はあまりいない。 いるのはベンチに寝転がっている酔っ払い位だ。 「ここで座ろうか」 早坂さんは大きな噴水の周りにあるベンチの前に着くと優しく微笑みながら言った。 「はい」 そう頷くと早坂さんはゆっくりと座らせてくれた。 私はベンチに座ると目の前にある噴水を見た。 噴水はこの時間のせいか止められていて、大きな公園が更に広く感じて寂しく感じる。 そんな噴水をぼんやりと見ながら私の頭はコウの事でいっぱいだった。 さっきは怒りの方が多く頭を占めていたけど、今は悲しみの方が大きい。 コウは理沙さんを選んでいた。 私との結婚生活を送りながらも心にはいつも理沙さんがいた。 それでも私を抱いてくれた。 好きとも愛しているとも言ってくれた。 私はこんなに好きなのにコウは裏切ってた? いや…違う。 その瞬間、高科さんが『お互い様ですね』と言った事を思い出した。 そうだ。お互い様だ。 だって私達の結婚は偽装結婚だから。 私だってコウが好きで結婚した訳ではない。 コウだって私に気持ちがなくてもおかしくない。 でもコウは私に気を使ってくれてた。 初恋の人だから傷つけたくないのが理由かもしれないけど。 結婚するときだって私の好きにすればいいって言ってた。 部屋だって一緒にする事ないって言ってた。 嫌がる事は何一つしなかった。 だからそんな生活が楽しくて、幸せで。 コウが大好きで。 いつしか偽装結婚だったのを忘れていたよ。
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