私があなたにできる事

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その夜は珍しくコンビニ弁当を買った。 コウと結婚して以来、毎日のように自炊をしていたけど今日はそんな気分になれなかった。 昨日の理沙さんとの話が頭から離れなくて。 仕事をしてても何をしててもコウと理沙さんの姿が交互に脳裏に現われて、私を嘲笑っているように思えてしまう。 「食べなきゃ」 私はそう呟くとお弁当のふたを開けて割り箸をパチンと割った。 そしておかずを掴み口に入れようとするが、どうしても食べる気になれない。 私はおかずをお弁当に戻すと「はぁ」と溜息をつき、テーブルに伏した。 すると突然、携帯電話の着信音がなった。 その音に敏感に反応して身体がビクッとなる。 この時間にかけてくるのは…きっとコウだ。 私は恐る恐る携帯電話を手に取ると、表示されている着信相手の名前を見た。 当然だが携帯電話には「コウ」と表示されている。 …やっぱり。 コウは沖縄出張の間は出来るだけ毎日電話すると言ってたし、実際に毎日電話してきた。 それが毎日の楽しみだったから、いつもは飛びつくように電話に出ていたけど…。 でも今日は躊躇している自分がいる。 心のどこかで電話が切れるのを待っている自分がいる。 だって今はコウと話す自信がないから。 だから私は電話に出る事が出来ずに携帯電話に表示されている「コウ」という文字を眺めていた。 それでも着信音は止まる事がなく鳴り続けている。 きっとコウはなかなか電話に出ない事を不思議に思っているだろう。 …どうしよう。 このまま居留守にして誤魔化す? 無理だ。そんな事してもまた電話は鳴るだろう。 出なきゃ。 私は大きく深呼吸すると震える手を押さえながら着信ボタンを押した。
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