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「じゃあ、7時にTホテルのラウンジで」
理沙さんは一方的に言うと電話を切った。
ツー、ツーと電話が切れた音が聞こえてくるが、私は携帯電話を耳にしたまましばらくそのまま立ち竦んでいた。
でもそれは不安で怯えている訳ではない。
ちゃんと理沙さんに言えるように。
コウが沖縄から帰ったら話すって。
そしてコウに決めてもらうって。
自分の意気を高めていた。
私は「よしっ」と小さくガッツポーズをすると自席へと戻って行った。
自席に戻り、パソコンのキーボードに手を伸ばそうとすると隣から早坂さんの声が聞こえてきた。
「何かあったの?」
「えっ?」
私はそう言い、隣に視線を移すと早坂さんが心配そうな顔をしていた。
そして目が合うと優しく言う。
「話し聞くよ」
早坂さんはいつもそうだ、何かあると話を聞いてくれる。
気がつかなかったけど、きっと今も理紗さんの事で表情に出てたんだろう。
不安そうな顔をしているのだろう。
「大丈夫です」
私はいつになく強く言った。
だって今は自分自身がしっかりしないといけないから。
早坂さんに甘える訳にはいかない。
…これは私の問題だから。
早坂さんはそんな私に圧倒されたのか、驚いた顔をして私を見ている。
そんな早坂さんを無視するように私は視線をパソコンに移すと仕事を始めた。
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