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「で、愛されてないと?」
華ちゃんはそう言うとビールをグイッと飲み干し、私を睨んだ。
その顔からは笑顔は全くなくて。
いつもニコニコとしている華ちゃんのそんな表情を見ると萎縮してしまう。
終業後、約束通り華ちゃんと食事に行った。
正確には食事ではなくて飲みに行ったという方が正しい。
今日のお店は席数の少ない渋めの焼き鳥屋。
いつもは洋食系が多いが、たまには焼き鳥もいいねって気軽な気持ちで店を選んだ。
店は混雑していてカウンターしか空いてなく、私達は並んで座る事にした。
焼き鳥はもちろんだが、目の前のカウンターの上にお惣菜が並んでいてどれも食欲をそそる。
注文したビールが届くと乾杯をして、私は今朝のコウとのやりとりを華ちゃんに話した。
てっきり「先輩、かわいそうにぃ」とか甘い声で言われるかと思いきや、華ちゃんの表情は真顔で。声は低くて。
私は間違った事を言ったのかと思ってしまう。
「だって…」
「だってじゃないの。あんなに愛されているのに…」
華ちゃんはそう言うと焼き鳥を思いっきり頬張った。
それは年頃の女子ではなくてオッサンのように見える。
私はそんな華ちゃんの言葉に驚いた。
…あんなに愛されているのに?
「へ?どういう事?」
私は華ちゃんの顔をまじまじと見ながら言った。
でも華ちゃんは私の顔を見ようとしない。
焼き鳥とビールを交互に口に入れながら言った。
「もう先輩ったらわかってないんだから。教えてあげない」
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