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女性と別れ、エレベーターに乗って割り当てられた部屋が有る階まで上がり、部屋の前までやって来た。
柔らかい絨毯は思わず踏むのに躊躇いを覚え、知らない材質の壁に触れながら歩き、見慣れないドアの前に立つアケル。
数回深呼吸をし、アケルは緊張しながら小さな鍵を鍵穴に差し込んで回す。
ガチャっと鍵が開く音が鳴り、ドアノブを引いて中を覗き込むようにして入る。
ドアが閉まれば中は完全な暗闇に包まれ、アケルは手探りで照明のスイッチを押す。
明かりの点いた室内は、広いが質素。最低限必要な家具は常備されているようだ。
リビングに入ると、中央に見えるように置かれた小さな段ボール箱が目につく。
ここに来る前に送ったアケルの持ち物。片手で持ち上げられる程軽く、小さな箱にいとおしげに指を這わせ、テープを剥がして中身を取り出していく。
男物の衣類に、写真立て、翼を模したネックレス、そして1つの小さな指輪。
写真立てを手にし、アケルはソファーに倒れ込む。腕を伸ばして写真立てを翳した。
写真には、むすっと不機嫌そうに唇を尖らせる幼きアケルと、そんなアケルを仕方無い子ね、と言うように撫でながら笑顔で写る女性。
写真立てを胸に抱き、片腕で両目を覆う。
「……母さん」
その呟きを最後に、アケルは穏やかな寝息を立てた。
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