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「月子は昔から困った子でさ。
要求することはめちゃくちゃだし、自分勝手だし。
でも、…何となく放っておけないっていうか。強さの裏側にある弱さが覗くと、守ってやりたくなるんだよね。
だから俺も、…つい、あいつのワガママにつき合ってやってたんだ。
それが良くなかったんだけどね、今思えば」
更科くんは腕を組んで、顔を伏せた。
「月子は、お気に入りの俺が美雪と仲良くし始めたことが面白くなかった。
それで、美雪を排除しようとしたんだ。
つまり…。
…月子が美雪をイジメ始めたきっかけは、…俺だったってこと」
伏せられた更科くんの顔が、一瞬、泣きそうに歪んで見えた。
「…じゃあ…。更科くんがわたしのこと狙ってるって言ってたのは…もしかして」
「そう。あの時と同じように、月子の嫉妬心を煽るためだよ」
更科くんは深く頷いて見せた。
「萌の事を好きだって言って、月子の気持ちを揺さぶった。
春山だけじゃなく、俺まで奪い取られることへの月子の怒りようと言ったら、半端じゃ無かったよ。
あいつは俺の狙い通り、――萌を憎み始めたんだ」
顔を上げた更科くんの目には、再び冷たい光が浮かんでいた。
「実際に仕掛けてみると、月子が面白いほど単純で、笑えた。あいつほどコントロールしやすいやつはいないよ。
でも……。唯一の計算違いは、萌だよね」
更科くんは顔をしかめた。
「萌だけは、全く俺たちの思い通りに動いてくれなかったから、…正直、イラついた」
「思い通り…?」
「そう。…もっと、月子の敵として、しっかりあいつを怒らせてほしかったのにさ」
更科くんは立ち上がり、こちらに向かって来た。
身を固くしたわたしの脇を通り過ぎ、部屋の奥に進む。
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