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ドアにもたれ、座り込んだまま、わたしはぼんやりと宙を見つめていた。
扉を叩き続けた右手は痺れて感覚を失い、助けを呼び続けた喉は枯れている。
手に持った携帯に目をやると、圏外、という文字の横には、PM7:35という現在の時刻が表示されていた。
涙が乾いた頬もひりひりしていたけれど、それがさほど気にならないほど、打たれ、抓られた左頬の腫れと痛みの方が酷かった。
時間が経つにつれ、寒さがじわじわとこの部屋を浸食し始め、わたしの身体を冷たく冷やして行く。
わたしは、自分の身体を守るように両手で膝を抱えた。
…板東先輩…。
助けを呼ぶのを諦め、座り込んでから、――わたしの頭の中を占めているのは、2年前の苦すぎる記憶だった。
この場所で起こったことが、まるで昨日の事のように感じられた。
縛り付けられた板東先輩の姿。
演説するように語る都筑の声。
サッカー部員たちから注がれるたくさんの視線。
…もしあの時、…沙希先輩が来ていなかったら…。
ぞく、と寒気がして、わたしはきつく目をつぶった。
膝を引き寄せ、唇をかみしめる。
もう、とっくに忘れていると思っていたのに…。
この場所にいる限り、…きっとこの過去の幻影からは逃れられない。
早く、ここから逃げ出したい。
「助けて…春山先生…」
顔を膝に埋め、わたしは再び泣きだした。
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