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「…ヒロシくんを襲って、締め技をかけたのも、…白井さんなの…?」
ぽとり、と大粒の涙が溢れる。
「…白井さん、…学生時代、柔道をやっていたんでしょう…?」
わたしの脳裏に、トロフィーを誇らしげに抱える、柔道着姿の白井さんの画が浮かんだ。
…それを、その写真を、あの日わたしは白井さんの仕事場で見た。
棚には、柔道着を着た仲間たちと畳の上で撮ったいくつもの記念写真が、大切に飾られていた。
今まで、そんな風に結びつけて考えたことは無かったけれど、…疑ってみると、次々につじつまが合い始める。
「あの夜、…ヒロシくんの話をわざわざ病院まで聞きに行ったのは、…自分の顔を見られていたかどうか、ヒロシくんの反応を確認するためだったの…?」
「萌ちゃん…」
ぽろぽろと涙をこぼすわたしを、白井さんは苦しそうな表情で見つめていた。
「やだ…。やだよ、白井さん…。白井さんが犯人だなんて、…わたし、やだ…」
白井さんの手を頬に引き寄せ、嗚咽を漏らす。
「お願いだから…ちゃんと説明して…。ちゃんと、違うって、…全部、説明して…」
涙に視界を奪われながら、白井さんの手に顔を埋めて泣き続けていると、白井さんの左腕がそっとわたしの身体を抱き寄せた。
「萌ちゃん。……泣かないで…。本当に、俺じゃない。俺は、放火なんて…」
「そうだよ。…いくらなんでも、放火魔扱いは、可哀相なんじゃない?…萌」
突然後ろから投げかけられた声に、わたしは驚いて振り返った。
ポケットに手を突っ込んで、一つ隣の電灯の下に立つ姿。
――更科くんは、冷めた笑顔を浮かべていた。
白井さんが慌てたように、わたしの身体から手を引く。
更科くんはすたすたとこちらに歩み寄り、わたしたちと同じ電灯の輪の中に足を踏み入れた。
そして…。
「耀ちゃん。…いいよ。…もう充分だから、俺が全部、話すよ」
更科くんは、白井さんに、まるで親友に話しかけるような口調で、そう言った。
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