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「耀ちゃん。そろそろ美雪の写真も飾ってあげたら?
いつまでも押し込めといたら、可哀相だよ」
更科くんは棚の写真を眺めながら、そう言った。
ソファに座ってぼんやりとその声を聞いていると、目の前にガーゼのハンカチで巻かれた保冷剤が差し出された。
「ありがとうございます…」
受け取ってお礼を言うと、白井さんが微笑んで、そのまま向かいのソファに腰掛けた。
「もう少ししたら、送って行くから。10時半までには家に着くようにするよ。
しばらく、冷やしてて」
わたしは頷いて、保冷剤を左頬に当てた。
腫れた頬は、ぶたれた直後のジンジンと響くような感覚の代わりに、徐々に強張ったような重い痛みを感じ始めていた。
「何か、飲む?」
「いいえ…」
わたしが首を横に振ると、白井さんは小さく頷いた。
白井さんの仕事場は、以前来た時より雑然としていた。
部屋に入る前に聞いた、散らかっているよ、という言葉通り、デスク周りに書類が乱雑に置かれている。
まるで、仕事の最中に急な用事が入り、全てを放り出して出かけたかのような状態に見えた。
「時間があんまりないね、萌」
更科くんはスリッパを引きずりながらパソコンデスクに歩み寄り、キャスターのついた丸い椅子にすとん、と腰かけた。
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