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「月子が萌に危害を加えること。
――これが、俺たちの目的の一つだったんだ」
わたしが目を見開いて固まると、更科くんは愉快そうに小さく笑った。
「月子をもう一度加害者にして、……今度こそ、あいつを守ろうとしている大人たちの目を覚まさせてやりたかったんだ。
それには、月子にもう一度同じ過ちを犯してもらう必要があった。
萌は、…言ってみれば、生け贄ってところかな」
生け贄、という言葉に、心の奥がズキンと痛んだ。
「どうして、わたしなの…」
震える声で訊くと、更科くんはスッと人差指でわたしを指差した。
「春山のオンナだからだよ」
わたしは息を呑んだ。
目の前が一気に開けたように、何かが繋がった。
…そうか…だから…。
「いくら心の広い春山センセーだって、萌に危害を加えるような女をさすがに手元に置いておける筈がないだろ。
自分のお人よしさ加減に気付いて、きっと月子を必死で守ってやった事を後悔するだろうね。
そして、月子は自分の居場所を失う事になるんだよ。
春山に見放される時の月子の顔、――ぜひ、見て見たいよね」
更科くんの目が冷たく光った。
「ほんとは、…もうすこし萌にひどい傷でも付けてもらえたらもっと良かったんだけど」
「…ミツル」
白井さんが咎めるように更科くんに視線を投げる。
「わかってるよ。…冗談」
そう言った更科くんの目は、震えあがりそうなほど、冷えていた。
「それなら…」
わたしはスカートの裾を握りしめた。
「助けになんか、来なければよかったじゃない。
更科くんが、わたしが閉じ込められたこと黙ってれば、――わたしはもっと大変なことになってたのに……」
「そうしたかったよ、俺だって」
氷のように美しい微笑みを浮かべ、更科くんは言った。
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