-1-

8/14
前へ
/40ページ
次へ
「月子は昔から困った子でさ。 要求することはめちゃくちゃだし、自分勝手だし。 でも、…何となく放っておけないっていうか。強さの裏側にある弱さが覗くと、守ってやりたくなるんだよね。 だから俺も、…つい、あいつのワガママにつき合ってやってたんだ。 それが良くなかったんだけどね、今思えば」  更科くんは腕を組んで、顔を伏せた。 「月子は、お気に入りの俺が美雪と仲良くし始めたことが面白くなかった。 それで、美雪を排除しようとしたんだ。 つまり…。 …月子が美雪をイジメ始めたきっかけは、…俺だったってこと」  伏せられた更科くんの顔が、一瞬、泣きそうに歪んで見えた。 「…じゃあ…。更科くんがわたしのこと狙ってるって言ってたのは…もしかして」 「そう。あの時と同じように、月子の嫉妬心を煽るためだよ」  更科くんは深く頷いて見せた。 「萌の事を好きだって言って、月子の気持ちを揺さぶった。 春山だけじゃなく、俺まで奪い取られることへの月子の怒りようと言ったら、半端じゃ無かったよ。 あいつは俺の狙い通り、――萌を憎み始めたんだ」  顔を上げた更科くんの目には、再び冷たい光が浮かんでいた。 「実際に仕掛けてみると、月子が面白いほど単純で、笑えた。あいつほどコントロールしやすいやつはいないよ。 でも……。唯一の計算違いは、萌だよね」  更科くんは顔をしかめた。 「萌だけは、全く俺たちの思い通りに動いてくれなかったから、…正直、イラついた」 「思い通り…?」 「そう。…もっと、月子の敵として、しっかりあいつを怒らせてほしかったのにさ」  更科くんは立ち上がり、こちらに向かって来た。  身を固くしたわたしの脇を通り過ぎ、部屋の奥に進む。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1046人が本棚に入れています
本棚に追加