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「この部屋、…砂糖もミルクも置いてないんだ。ブラックでもいい?萌」
差し出されるマグカップに、わたしは手を出すことなく、じっと更科くんの目を見つめた。
「どうして、…わたしに全部、話したの…?」
更科くんの顔から微笑みが消えていく。
「せっかく計画がうまくいってたのに、…どうして、わたしに種明かし、しちゃったの…?」
美しい二つの目が、真っ直ぐにわたしを見返してくる。
「…もう、…充分だからだよ」
囁くように言った更科くんの言葉に、先程から湧き出している嫌な予感が勢いを増した。
「月子ちゃんは…?」
わたしは震える声で問いかけた。
「…更科くん…。月子ちゃんは、…今、どうしてるの…?」
沈黙が、重苦しく部屋を包んだ。
「…さあ。どうしてるかな」
差し出したコーヒーを引っ込め、くるりと背中を向ける。
「…月子ちゃんに、…何かしたの…?」
「萌」
背中を向けたまま、更科くんは言った。
「どうして俺が今まで、…耀ちゃんを悪者に仕立ててまで、月子の傍に寄り添って来たか、分かる?」
「え…?」
「裏切られた時の月子の絶望感を、増してやるためだよ」
更科くんはコーヒーを一口啜ってから、マグカップを調理台の上に置いた。
そして、くるりとこちらを向いて、腕を組む。
「さっき、…待ち合わせた場所に行ったら、月子はすごい剣幕で俺に詰め寄って来たよ。
どうして萌の事を好きだなんて、嘘をついていたのか、…本当に思ってる相手は誰なのかって」
顔を伏せ、可笑しそうにくく、と笑う。
「きっと、…突然気付いたんだろうね。
…俺の想ってる相手が、萌じゃなくて、…自分が死なせた美雪だったんじゃないかって。
あいつ、…頭に浮かんだその考えを否定してほしくて、俺を呼び出したんだよ。
だから…」
更科くんは、顔を上げた。
「話したんだ、全部。今、萌に話したことを、月子にも。
まず、…萌に危害を加えた今、春山家に月子の居場所は無いってこと。
それから、俺がどれだけ月子を憎み続けて来たかってこと。
月子が苦しむ姿を一番近くで見ていた俺が、どれだけ喜びを感じていたかも、じっくり話して聞かせたよ」
更科くんは、残酷な微笑みを浮かべた。
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