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「想像してみて、萌。今まで、どん底に落ちている時、ずっと傍に付いていてくれた、たった一人の信用出来る人間が、――実は自分の事を誰よりも憎んでいて、裏切り続けてたって知ったら。
萌なら、どんな気持ちになる?…例えば、…絶望して、死にたくなったりしない?」
「…どこ…」
握り締めたわたしの手のひらには、冷たい汗がにじんでいた。
足を踏み出し、更科くんの腕を掴む。
「…月子ちゃんは、…今、どこなの?」
「さあ。…本当に知らない」
「…何か、したの、月子ちゃんに」
「何もしてないよ。…ただ、言っただけだよ。
もうお前の居場所はどこにも無いって。
お前がいると、周りの人間たちが嫌な思いをするって。
死んだ方がいいよって。
―――あいつが、最後に美雪に言ったのと同じ言葉をね」
間近で見る更科くんの目は、…ガラス細工のように綺麗で、…それでいて、その内側には、全ての光を拒絶しているかのような、真っ暗闇が広がっていた。
冷え切った微笑みから目を逸らし、わたしは白井さんの元に駆け寄った。
足元に座り込み、顔を覗き込む。
「白井さん。…お願い。更科くんを説得して。
月子ちゃんに何かあったら、…更科くんも白井さんも、絶対に後悔する」
「しないよ、後悔なんか」
わたしの背中に、更科くんの澄んだ声が響いた。
「俺たちは法に触れるようなことはしてない。
ただ、月子が自分の罪を直視するよう、導いただけだ。
その結果、月子がどんな行動に出ようと、…俺達には関係のない事だよ」
白井さんは更科くんの言葉をじっと聞いていた。
「…白井さん…」
わたしがもう一度、訴えようとした時だった。
ピンポーン、という、玄関のインターホンを鳴らす音がした。
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